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発振法(QCM)

原理

水晶振動子(水晶発振子とも呼ぶ)とは、水晶の結晶を極薄い板状に切り出した切片の両側に金属薄膜を取り付けた構造をしたもので、それぞれの金属薄膜に交流電場を印加するとある一定の周波数(共振周波数)で振動する性質を示します。金属薄膜上にナノグラム程度の物質が吸着すると物質の質量に比例して共振周波数が減少するため微量天秤として利用することができます。このような方法論はQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶振動子マイクロバランス)法と呼ばれています。以下、このQCM法について原理を簡単にご紹介します。

水晶の圧電効果

ある種の結晶では、機械的なひずみをかけると結晶内の原子の位置関係が変化し、結果としてひずみの大きさに比例した分極が生じます。この現象は圧電効果 (piezoelectric effect) と呼ばれ、1880年にフランスの物理学者キューリー兄弟によって発見されました。これとは逆に結晶に電場をかけると機械的なひずみを生じます(逆圧電効果)。これらの現象は水晶、ロッシェル塩、電気石などの結晶に見いだされていますが、その中でも特に水晶(石英 quartz ; SiO2)は、圧電特性、化学的性質、熱的安定性に優れていることが知られているため、最も用いられます。

■圧電効果 水晶の結晶に機械的に圧力をかけると、表面に電気が発生します。 ■逆圧電効果 電気(電圧)をかけると、機械的に歪を発生します。

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水晶振動子マイクロバランス法

水晶をある結晶方向に沿って極薄い板状に切り出した切片の両側に金属電極を取り付け、それぞれの電極に発振回路などを使用して交流電場を印加するとある一定の周波数(共振周波数)で振動する水晶振動子となります。この水晶振動子は手軽で精度が高く安定した周波数が得られることから、クォーツ時計、携帯電話などの通信機器における基準周波数として使われています。

水晶振動子には様々な種類がありますが、AT-カットという角度で切り出した水晶板薄膜の両面に電極を作製した水晶振動子は厚みすべり振動(Thickness-shear-mode resonator)と呼ばれ、水晶面に水平な方向にずり振動します。この時の水晶振動子の周波数は水晶の厚さで決まり、薄い水晶板を用いるとより高い周波数で振動する水晶振動子が得られます。この水晶板の周波数が、電極上の物質の質量に応じて変化していることが1950年代に報告されました。周波数の変化量と付着物質の質量との関係は、Sauerbrey式と呼ばれる次式で表され、付着物質量が増加すると周波数が減少し、付着物質量が減少すると周波数が増加します。この現象を利用し、水晶振動子の周波数変化を検出することで、その電極上での物質の質量変化を計測する方法を水晶振動子マイクロバランス法(QCM法)と呼びます。

Sauerbreyの式

水晶振動子マイクロバランス法 図 水晶振動子マイクロバランス法 図

水晶振動子は、以前は気相での測定に使用するのが大前提でした。その理由は、①水晶板の振動が液相のように粘性の高い環境では強く減衰されてしまうために発振できないこと、②水晶振動子の構造が金属薄膜で絶縁体である水晶を挟んだ一種のコンデンサーであり、水中などでは両電極が通電してしまうこと などの問題点があったためです。しかし、1981年になると液相中でも発振できることが示されました。発振回路の改良や水晶振動子の片面を液相に触れないよう被覆するなどの改良があったことが、水晶振動子の液相での使用を可能にした要因でした。これらのことをきっかけに、水中におけるQCMとしての利用が著しく広まり、この後10年間で化学、生化学、微生物学といった様々な分野においてQCMが使われるようになってきました。

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分子間相互作用測定装置としてのQCM

現在販売中の高感度水晶発振子

Sauerbreyの式を見ると、右項に水晶振動子の基本周波数F0が入っています。これは水晶振動子の基本周波数を高くすればするほど周波数の2乗に比例して検出される振動数変化の値が大きくなる、すなわち質量検出感度が大きくなることを示しています。イニシアムでは従来まで水溶液中で発振させることが困難であった27 MHzという高周波基本周波数の水晶振動子を用いたQCM装置を世界ではじめて製品化することに成功しました。AFFINIXシリーズのセンサーで使用している27 MHzの基本振動数を持つ水晶振動子の場合、1Hzの振動数減少が0.62 ng/cm2のセンサー表面上の質量増加を示すことが理論的にも実験的にも確かめられています。これは市場でよく見かける5MHzや9MHzの水晶振動子に比べ検出シグナルがそれぞれ29倍、9倍高いことになります。高周波QCMを用いることで検出感度が向上するのでこれまで変化量が小さく観察することが困難であった生体内の様々な分子(核酸、ペプチド、タンパク質、糖鎖、脂質単分子膜など)の相互作用の様子を経時的に周波数変化として検出できるようになりました。 またイニシアムのQCMラインナップでは通常一秒毎に振動数データを取得してリアルタイムに質量の増減をモニタリングしています。表面上への物質の吸着をリアルタイムでモニタリングできることは非常に重要で、物質の吸着速度などの情報も得ることができます。

QCM装置AFFINIXシリーズの特徴をまとめると下記になります。

  • センサー表面へのナノグラムレベルの吸着量を定量化できる。
  • タンパク質などの生体分子でもラベル化することなく、ネイティブに近い状態で相互作用を検出できる。
  • 吸着反応をリアルタイムに測定できる。

AFFINIXシリーズは結合反応では質量は増加するため振動数は減少し、分解反応などは質量が減少するため振動数は増加します。このことから金やSiO2のような固体表面へのタンパク質等分子の吸着、高分子薄膜の吸着量の定量、またそれらの解離や分解のモニタリングに使用できることがわかります。
一方、二分子間の相互作用を定量する場合は、どちらかの分子をセンサー表面に固定化し、どちらかの分子を溶液中に添加して、その吸着量をモニタリングすることで測定することができます。センサー表面に固定化する分子をホスト分子、溶液中に添加しホスト分子に結合する分子をゲスト分子と呼んでいます。典型的な結合反応(図)の場合、ホスト分子固定化基板に対してゲスト分子サンプルを添加すると、ホスト分子に対しての結合反応が開始されます。ゲスト分子の吸着量は濃度依存的に起こり、この時の各濃度の平衡値を解析することにより、ホスト分子とゲスト分子の結合強度を表す解離定数(Kd値)を求めることができます。また結合反応をリアルタイムでモニタリングできることから結合時の吸着カーブを解析することで反応速度に関するパラメーター結合速度(kon)、解離速度(koff)、の値を求めることができます。解離定数は結合定数(Ka)の逆数で値が小さいほどホスト分子とゲスト分子の親和性(Affinity)が強いということができます。しかしながら同じ解離定数の値を持つ相互作用でも結合速度が速く解離速度が遅い反応、結合速度が速く解離速度も速い反応の場合があります。分子間相互作用の詳細を解析する場合は、結合速度、解離速度まで含めて議論することが大切です。
解離定数(結合定数)を算出する実験は、各濃度時の飽和吸着量⊿Fを算出し、それを横軸ゲスト分子濃度、縦軸飽和吸着量としてプロットすることによって算出することができます。実験が適切に行われた場合、プロットは濃度が高くなるにつれ一定の値に近づくLangmuir型の飽和プロットになります。この得られたプロットを非線形回帰計算により曲線フィッティングを行い、最適なKdと・⊿Fmaxの組み合わせを導き出すことができます。各ゲスト分子濃度に対する飽和吸着量を算出する際には2通りの方法があり、ゲストサンプルを添加し吸着が平衡に達したらさらにゲストサンプルを添加する操作を繰り返し、各ゲスト分子濃度における平衡吸着量を求める方法と、異なるゲスト分子濃度のゲストサンプルを添加する独立の測定を繰り返す方法です。どちらの方法でも各ゲスト分子濃度における平衡吸着量を求めることができ、原則的には同じ値が得られます。
また、異なるゲスト分子濃度のゲストサンプルを添加する独立の測定を繰り返す方法では、吸着カーブをフィッティングすることにより反応速度に関するパラメーター結合速度(kon)、解離速度(koff)を算出することができます。
イニシアムではAFFINIXシリーズの相互作用測定データの解析を行う上で、センサーグラムのフィッティングや平衡定数の算出を簡便に実施する事ができるソフトウエアAQUAをご提供しています。

相互作用の速度定数と結合定数 ホスト分子とゲスト分子の相互作用の模式図とQCMセンサーグラム

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